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追伸 あなたへ

お元気ですか

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彼は初めて勤めた会社の同期だった。私も彼も営業部の配属で、私たちは3ヶ月の研修を共にした。
彼は男前で研修中の成績もトップ。そして誰にも優しかった。同期の女の子たちはみんな彼がいいと言っていた。それなのに、なぜか私にだけは優しさの欠片もなく、いつも私は彼にいじめられていた。
でもだからと言って仲が悪い訳ではなかった。研修の時、隣同士の席になれば、私たちはつまらないことをメモ用紙に書いてそれを見せ合って笑った。

研修が終わり、お互い別々の営業所に配属されたあとも、私たちはよく電話をしたし、同じくらいの時間に終われそうな時は一緒に夕食を食べたりした。ご飯を食べながら彼は私の頭をこついたり、憎まれ口を叩いたり、研修中と変わらない状態だった。
私たちは営業だったので、同期の中で一番に初契約をとってくることを競っていた。そして私は同期の中で一番に初契約をとった。彼は電話で「おめでとう。まぁ俺もすぐに追いつくけど」と言って、その日、夕食をおごってくれた。
しかし彼は私の後に続けず、結局初契約をとったのはその3ヶ月後だった。おめでとうの電話をした時、私も彼がそうしてくれたように夕食をおごった。その帰り道、嵐山の土手沿いに腰掛けて話していると、彼は急に私の胸で泣き始めた。彼は同期の中でも初契約をとれたのが最後で、それが悔しかったのだと言った。私にも強がりばかり言っていたけど、本当はうらやましくて、悔しくて、どうしようもなかったと。
その後、彼はトップセールス賞をもらうまでになったのだが、あの日の悔しさはずっと糧にしていたと、おまえは入社したときから一番心を許せるけど、一番のライバルだった、ありがとうと、私が会社を辞める時に言ってくれた。初心に戻りたいときはまたここに来るよと嵐山の川の流れを眺めながら言った。

私は悔しくなるとここに来る。彼が初心に戻りたい時のように。彼の涙を思い出しながら、私も頑張ろうと思うのだ。
by ps_for_you | 2010-06-24 21:36